企画展 没後45年 「宇治橋春年−山水花鳥,湖北を駆ける–」
会期:令和7年12月20日(土)~令和8年2月8日(日)
前期展示/12月20日(土)~1月12日(月・祝)
後期展示/1月14日(水)~2月8日(日)
休館日:毎週月曜日[ただし1月12日(月・祝)は開館し、1月13日(火)は休館]、年末年始[12月27日(土)~1月2日(金)]
開催趣旨
宇治橋春年(1897-1981)は、長浜市北ノ郷町出身の、近代の湖北(滋賀県北東部)を代表する画家です。幼少期に山階町の中川耕斎に弟子入りし、大正6年(1917)頃、京都画壇を代表する画家・山元春挙の画塾「早苗会」に入門しました。早苗会における春年の動向は詳しくはわかっていませんが、大正期の春年は、当目町の宇治橋家の婿養子となり、北海道への移住や大正天皇銀婚式を祝した献上画《旭日桜花図》(皇居三の丸尚蔵館蔵、本展未出品)の制作など大きな転機を迎えています。その後、昭和に入ると開戦をきっかけに帰郷し、以後は湖北の各地を訪ね、地域の人々に求められるまま作品を描き続けました。山水・花鳥画を得意とし、雄大で華麗な作品の数々は、今もなお人々を惹きつけます。没後45年を機に開催する本展では、初期作《薬師堂図》(北ノ郷自治会蔵【後期展示】)から、川道町の「南寿荘」に残した《緑渓遊禽図》(個人蔵)、自宅アトリエ「錦雲荘」伝来の晩年作《孔雀図》(個人蔵)などを中心に、その画業を振り返ります。
関連事業
展示説明会
日 時:令和7年(2025)12月20日(土)午後1時30分~
会 場:長浜城歴史博物館 2階展示室 ※聴講料無料、申込不要、ただし当日の入館券が必要です。
主な展示資料

《梨に鸚鵡図》 1幅 大正時代 個人蔵 【前期展示】
画面を埋め尽くすように梨の白い花が広がり、左上の枝には1匹の鸚鵡がとまっている。色彩は白と緑でまとめられ、明快な画面を生み出している。植物に対して鸚鵡は写生的に描かれ、画面のアクセントとなっている。


《緑渓遊禽図》 6曲1双 昭和16年(1941) 個人蔵 【前期・左隻、後期・右隻を展示】
春年は、自身のアトリエ「錦雲荘」のほか湖北各地に拠点をもち、制作を行った。本作は知人宅「南寿荘」で制作され、《緑渓遊禽図》と名付けられた作品。右隻は奥山の景色が広がり、画面全体に滝や渓流、松に小禽といった様々な生き物が描かれる。緑色を主体とした鮮やかな彩色をほどこす自然の景物が満載し、「緑渓」というタイトルを思わせる。左隻は、右隻とは対照的に、画面の左に行くにつれ樹木は姿を潜め、余白を多くとっている。視点は画面の下半分に移り、隈笹の群生の上で、二羽の雉子が羽を休める静寂な空間が広がっている。
鮮やかな色彩と緻密に描かれたモチーフ、これらを複雑に組み合わせることで奥行きを表す画面構成など、春年の花鳥画の真骨頂を示す作品。

《薬師堂図》 1幅 大正10年(1921) 北ノ郷町自治会蔵 【後期展示】
春年の生まれた北ノ郷町に鎮座する薬師堂を描いた作品。大正10年(1921)、薬師堂を改築する際に、当時の姿を記録するために制作され、現在確認できる春年の最古の作品である。
樹木は薄墨で柔らかな輪郭線を用いて、樹皮も細かく描き、葉は輪郭線を用いずに鮮やかな緑青で一本一本丁寧に描いている。薬師堂は謹直な筆遣いで細部まで写されており、屹立する木々に囲まれてひっそりとたたずむ姿は神聖さを感じさせる。
薬師堂は、現在は岡高神社の西隣に位置するが、もとは明治時代、地域住民の浄財によって広善寺の西に建立されたことに始まる。祭事としてオコナイや燈明祭を行っており、本作はオコナイにおいて、自治会館の床の間に飾られる。

《瀑布図》2曲1隻 昭和48年(1973)個人蔵 【 前期展示】
銀地に墨一色で、垂直に流れ落ちる滝を描いた作品。画面右から松の枝が伸び、右端の太い枝の下半分を濃い墨で稲妻型に塗ることで、画面の奥へと伸びる様子が立体的に表されている。春年の水墨画の作例は多くないが、喜寿(77歳)に制作された本作からは、熟達した技量が感じられる。川道町の知人宅「南寿荘」伝来品。